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□七、インチキ精神科医の思考実験
「学校には慣れたかい」
 と、医者はパソコンの画面に向かって質問した。
 茶色い木目の壁に囲まれた小部屋だ。おれは背もたれのついた大きな丸椅子に座っている。医者とおれの他は誰もいない。壁は分厚く、外の雑音は入ってこない。代わりに小さな音でなんだか柔らかいような楽器の音が鳴っている。
 医者は右手でキーボードを叩き、左手でアップにしたボサボサの茶髪を何度か撫で付けた。
「まだ、色々と驚くことが多いです」
「そう? そういう顔はしていないように見えるけど」
 椅子を回して、こっちを向く。ニヤリと笑った。
 特に返す言葉もない。顔に出ないのは、育ちの問題。そういう性格なんだ。
「さて、今日で三回目の診察です」
「はあ」
「どうしようか」
「どうするもんなんですか?」
「難しい質問だ」
 腕を組んで、それから右手で顎を撫でた。
「また心理テストやってみる?」
 おれは答えなかった。というか何を答えればいいのかわからなかった。だって医者にかかりにきて、診察あるいは治療方法を選ぶ自由を貰っても困る。どこが悪いかどうやって治せばいいかわからないから病人なんだ。
「冷めてるね」
 肩をすくめてつまらなそうに言った。
 この人は精神科の医者で、名前を善法寺伊作というらしい。ちょうど三十路、と証言していた。戸籍を見たわけではないので本当かどうかは知らない。
 この医者先生はおれの現住所から電車で六駅、山と川を超えた先の街中で雑居ビル内に精神病院を開業している。医者は他に男性が一人、女性が一人いるようだ。待合室にはいつも(三回目だが)十人近くが順番待ちをしている。昨今の社会情勢上、こういった商売は繁盛すると聞く。
 息の詰まる時代だからね、とは医者本人の弁。実感がこもっていた。不養生だろうか。
「この間の心理テストはどういった結果だったんですか」
「知りたい?」
「知りたいですね」
「うちはあんまり患者には詳しく言わないようにしてるんだよ」
「何故?」
「意外とつまらないからさ。みんなもっと大層深刻な結果が出るに違いないと期待して来てるんだ。夢を壊しちゃ悪いだろ」
「その発言自体、どうなんですか」
「君は患者じゃないから」
 そう言って苦虫を噛み潰したように表情を曇らせた。同情されているな、と、それぐらいはわかる。
 確かにおれはこの病院に患者として通っているわけじゃない。一応、診察に来たという形にはしているが、それは診療時間の方が時間の都合がつけやすい、むしろサボる口実になると伊作先生が希望したからってだけだ。
 だからといって自分が医者に掛かる必要のない五体満足とは思わないが。


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