あまり時間がないのでここだけ更新しています。
その日書いた分をまとまりなく記事にしています。
ある程度まとまったらHTMLにする予定です。
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「彼女……彼女か!」
「何がおかしい」
別にその理由なんか知りたくはない。こいつが笑っていようがそうで無かろうが、どうでもいいことなんだ。客観的に考えると。どうやらおれは滑稽であるらしいが、それはこいつの主観であって甚だどうでもいいことだ。それに腹を立てているおれの感情も、全く、どうでもいい筈だ。
クソ、笑うなよ! 部外者の分際で!
「お前、これは犯罪幇助だぜ、判ってんのか?」
「彼女は犯罪者じゃない」
「いや! おれは見た! あれが何なのか、お前の位地からははっきり見えなかっただろうが、おれは証言できる」
「やめろ」
「庇う気持ちは判るさ。でもなァ、兵助君、現代日本じゃ、それは悪、って区分だぜ」
息が止まった。
肉体が何もかも不要になったような気分だった。脳髄だけが宙にぽかんと浮いているような。
利害が反した。明確にそれは提示された。だから、
「殺してやる」
冷えた手指が、思考と同期して速やかに動いた。
やわらかい首の肉に人差し指と親指がめり込んでいく。おれは両手で勘右衛門の首を絞めている。その生暖かい皮膚は次第に湿気りを帯び始めた。酸素と血液が、細くされた管の中を喘ぎ喘ぎ流れていくのが判る。
殺す必要があるとは思わない。
「脅しか」
顔を歪めながら、掠れた声で勘右衛門は言った。抵抗もせずに。なんでだ?
「脅しだよ。警察に彼女のことを言うなら、殺してやる」
「今じゃ、無いんだな。手、離せよ。気持ち悪いんだよ」
「今だ」
「それじゃ、話が、違うじゃねぇか。馬鹿野郎、目撃者がいる……」
ギクリとして、おれは周囲を見回した。公演の内部……遊具の影……道路際に植えられた樹木……鬱蒼と茂るその葉の隙間……オレンジの街灯……外側には沈黙して並ぶ住宅街……人影は無かった。不気味なほど、生きたものは何もなかった。その静寂につられて、いきを止めていた。そして何度も目を凝らして全てを見回した。
「落ち着いた?」
視線を戻すと、勘右衛門は悠々と笑いながら、手の甲で鼻血を拭っていた。
いつの間にか、おれは手の力を緩めていた。どころか、完全に奴から手を離していた。元々、本当に殺人なんてことをするつもりは無かったけど。
「今殺したら脅しにならないっつうの。大声出してやろうかと思った。殺されるーっつってよ」
「なんで出さなかった?」
「はっはっは」
まったく愉快でもなさそうに、愉快に笑い、勘右衛門はおれの顔の前に人差し指を一つ、立てた。
「一つ、教えてやらなければならないと思ってさ」
「何だって?」
「お前を脅し返してやろう」
「はあ?」
ニヤニヤ笑う顔を凝視した。無意識下で眉間の筋肉が緊張した。睨んでいるのはわざとじゃない。こいつの言動がそうさせただけ。
「おれは、お前が隠そうとしている真実を知ってしまった。警察も知らないようなネタだ」
「何の話をしてるんだ」
「しらばっくれてるつもりか? いや、もしかしたらお前は知らないのかもしれないな。どちらだとしても……」
「何の話なんだ? 真実って、何の……どの話だ」
「言えねぇなぁ。脅しなんだよ。脅し。おれはこの話を警察に持って行ってもいいし、黙ってやっててもいい」
「だから、警察に行くなら殺すって」
「ふっ」と、勘右衛門は吹き出した。
「殺す殺すって、繰り返されると陳腐だな。でもさ、お前、おれを殺したら、おれが何を知っていたか判らなくなるぜ。もしかしたらお前の知らない重大な話かもしれないのに」
なんだ、こいつ。ハッタリなんじゃないのか?
実際何も知らなかったとしても、ここまでなら喋れる。なにしろ核心を述べていない。
「何がおかしい」
別にその理由なんか知りたくはない。こいつが笑っていようがそうで無かろうが、どうでもいいことなんだ。客観的に考えると。どうやらおれは滑稽であるらしいが、それはこいつの主観であって甚だどうでもいいことだ。それに腹を立てているおれの感情も、全く、どうでもいい筈だ。
クソ、笑うなよ! 部外者の分際で!
「お前、これは犯罪幇助だぜ、判ってんのか?」
「彼女は犯罪者じゃない」
「いや! おれは見た! あれが何なのか、お前の位地からははっきり見えなかっただろうが、おれは証言できる」
「やめろ」
「庇う気持ちは判るさ。でもなァ、兵助君、現代日本じゃ、それは悪、って区分だぜ」
息が止まった。
肉体が何もかも不要になったような気分だった。脳髄だけが宙にぽかんと浮いているような。
利害が反した。明確にそれは提示された。だから、
「殺してやる」
冷えた手指が、思考と同期して速やかに動いた。
やわらかい首の肉に人差し指と親指がめり込んでいく。おれは両手で勘右衛門の首を絞めている。その生暖かい皮膚は次第に湿気りを帯び始めた。酸素と血液が、細くされた管の中を喘ぎ喘ぎ流れていくのが判る。
殺す必要があるとは思わない。
「脅しか」
顔を歪めながら、掠れた声で勘右衛門は言った。抵抗もせずに。なんでだ?
「脅しだよ。警察に彼女のことを言うなら、殺してやる」
「今じゃ、無いんだな。手、離せよ。気持ち悪いんだよ」
「今だ」
「それじゃ、話が、違うじゃねぇか。馬鹿野郎、目撃者がいる……」
ギクリとして、おれは周囲を見回した。公演の内部……遊具の影……道路際に植えられた樹木……鬱蒼と茂るその葉の隙間……オレンジの街灯……外側には沈黙して並ぶ住宅街……人影は無かった。不気味なほど、生きたものは何もなかった。その静寂につられて、いきを止めていた。そして何度も目を凝らして全てを見回した。
「落ち着いた?」
視線を戻すと、勘右衛門は悠々と笑いながら、手の甲で鼻血を拭っていた。
いつの間にか、おれは手の力を緩めていた。どころか、完全に奴から手を離していた。元々、本当に殺人なんてことをするつもりは無かったけど。
「今殺したら脅しにならないっつうの。大声出してやろうかと思った。殺されるーっつってよ」
「なんで出さなかった?」
「はっはっは」
まったく愉快でもなさそうに、愉快に笑い、勘右衛門はおれの顔の前に人差し指を一つ、立てた。
「一つ、教えてやらなければならないと思ってさ」
「何だって?」
「お前を脅し返してやろう」
「はあ?」
ニヤニヤ笑う顔を凝視した。無意識下で眉間の筋肉が緊張した。睨んでいるのはわざとじゃない。こいつの言動がそうさせただけ。
「おれは、お前が隠そうとしている真実を知ってしまった。警察も知らないようなネタだ」
「何の話をしてるんだ」
「しらばっくれてるつもりか? いや、もしかしたらお前は知らないのかもしれないな。どちらだとしても……」
「何の話なんだ? 真実って、何の……どの話だ」
「言えねぇなぁ。脅しなんだよ。脅し。おれはこの話を警察に持って行ってもいいし、黙ってやっててもいい」
「だから、警察に行くなら殺すって」
「ふっ」と、勘右衛門は吹き出した。
「殺す殺すって、繰り返されると陳腐だな。でもさ、お前、おれを殺したら、おれが何を知っていたか判らなくなるぜ。もしかしたらお前の知らない重大な話かもしれないのに」
なんだ、こいつ。ハッタリなんじゃないのか?
実際何も知らなかったとしても、ここまでなら喋れる。なにしろ核心を述べていない。
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