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あまり時間がないのでここだけ更新しています。 その日書いた分をまとまりなく記事にしています。 ある程度まとまったらHTMLにする予定です。
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「電話とか」
「電話をかけるのに常識的な時間に、暇があったためしがない」
 伊作さんはどちらかというと痩せて青白い顔色の男だ。女のように髪を伸ばしているが、切る暇もないのだと言う。病院が繁盛している引換なんだろう。
 痩け気味の頬を人差し指と中指で何度か掻いた。
「帰ります」
「もう? 一時間は診療時間で取ってあるんだ。君が帰ったら、別な患者を押し付けられる」
「一時間も?」
 一時間もの間、この医者と中身の無い会話を続けるのか?
 この人のことが格別嫌いというわけじゃないが、それにしたって一時間も他人と二人っきりで、話すことなんてそうそうない。
「いいじゃないか。それとも何か、君がいいと言うなら僕は仮眠を取ってやるぞ」
「はあ」
「いいのか? 君の目の前で、君の存在を無視し、机に突っ伏してあと五十分は寝続けてやる」
「帰っていいんですね?」
「だから」いじけたように口をとがらせた。「冗談だよ。つまらないかな」
「すいません」
「なぜ謝る。謝られた方が虚しい」と、呟いた後に慌てて、「いや、それは今はいい」
「とかく僕は君の監視役だし保護者代理だ。数日に一回一時間、話し合うぐらいは当然だろう」
「監視役というのは初めて聞きました」
 伊作さんが、しまった、という顔をした。
「ま、まあ、悪い意味で言ったんじゃないよ。……その、君を心配している人がたくさんいるってことさ」
「たくさんって」
 一人、二人じゃ、たくさんじゃないだろう。少なくとも三人目がいないと。
 大人でおれの経歴をはっきりと知っている人間なんてこの街には伊作さんと父親しかいないじゃないか。伊作さんと父親が知り合いなわけはないし、あと一人は誰だ?
 伊作さんはまだ落ち着きなく視線を泳がせて、自分の頬をつねったりしている。
 善良そうな人だ。
 犯罪を企んでいるようにも見えないし、あんまり突っつく必要もないか。
「話、戻そう。とにかく、ま、学校は上手く行っていると」
「はい」
「いじめられてない?」
「全く」
「友達できた?」
「同じクラスで、何人か」
「授業にはついていけてる?」
「今のところは」
「受験、どうするんだ?」
「生活が安定してから考えます」
「バイトとかは?」
「してません」
「どうするんだ」
「落ち着いたら考えます」
「いつ落ち着くんだ」
「そのうち」
「言えないのか」

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「君は患者じゃないから。言っちゃなんだけど、君別に医者にかかる必要、なさそうだよね」
「そうですか? 精神科の扉を叩いたのは三回目ですよ。ご存知だと思いますけど」
「でも治したいところなんてないんだろ」
 相変わらず腕を組んでふんぞり返り、にやにや笑って言った。
 確かにおれはこの病院に患者として通っているわけじゃない。一応、診察に来たという形にはしているが、それは診療時間の方が時間の都合がつけやすい、むしろサボる口実になると伊作さんが希望したからってだけだ。
 だからといって自分が医者に掛かる必要のない五体満足とは思わないが。
 少なくとも二回目に病院に駆け込んだ時には――一回目は事件直後に否応なく収容されたが、二回目は自分の意志だった。
 三回目のここは、二回目におれを見てくれた医者からの紹介だった。
「まあ、健康そうなのはいいんだよ。取り敢えず安心した」
「病院に来るならもっと不健康を装った方がいいでしょうか。始終独り言をしているとか」
「うちに来る患者程度なら、毎度泣きそうな顔をしてりゃ十分だけどね。混ぜっ返すなよ」
「そういう気分ではないです。独り言ならいくらでも出てきそうですけど」
「混ぜっ返すなって言ってるだろう」
 口をとがらせ、首を傾げた。それから一呼吸の間、何か考えたようで、
「君には感心することばかりだ」
 と、言った。
「よく言われます」
 と、返した。褒められているわけじゃないということぐらいはわかっているからだ。
「うん。まずそれだけ減らず口が叩けるのがすごい」
「それもよく言われます」
「とてもじゃないが十歳児のようには思えない」
「十七歳です」
「こんなにコミュニケーション能力の発達した十歳児存在しない」
「十七歳です」
「僕は早急に師匠と連絡を取り、君の精神的成長過程を洗ってみたいと考えている」
 師匠というのは、おれに伊作さんを紹介した精神科医のことだ。彼は大学病院に務める生真面目な教授で、伊作さんの学生時代の恩師だった。
「まだ連絡とってないんですか? おれの生存報告してるんじゃなかったんですか?」
「メールは送っているけど、不精な人だからねぇ。返事が一ヶ月ぐらい経たないと来ないんだ。いつも」

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□七、インチキ精神科医の思考実験
「学校には慣れたかい」
 と、医者はパソコンの画面に向かって質問した。
 茶色い木目の壁に囲まれた小部屋だ。おれは背もたれのついた大きな丸椅子に座っている。医者とおれの他は誰もいない。壁は分厚く、外の雑音は入ってこない。代わりに小さな音でなんだか柔らかいような楽器の音が鳴っている。
 医者は右手でキーボードを叩き、左手でアップにしたボサボサの茶髪を何度か撫で付けた。
「まだ、色々と驚くことが多いです」
「そう? そういう顔はしていないように見えるけど」
 椅子を回して、こっちを向く。ニヤリと笑った。
 特に返す言葉もない。顔に出ないのは、育ちの問題。そういう性格なんだ。
「さて、今日で三回目の診察です」
「はあ」
「どうしようか」
「どうするもんなんですか?」
「難しい質問だ」
 腕を組んで、それから右手で顎を撫でた。
「また心理テストやってみる?」
 おれは答えなかった。というか何を答えればいいのかわからなかった。だって医者にかかりにきて、診察あるいは治療方法を選ぶ自由を貰っても困る。どこが悪いかどうやって治せばいいかわからないから病人なんだ。
「冷めてるね」
 肩をすくめてつまらなそうに言った。
 この人は精神科の医者で、名前を善法寺伊作というらしい。ちょうど三十路、と証言していた。戸籍を見たわけではないので本当かどうかは知らない。
 この医者先生はおれの現住所から電車で六駅、山と川を超えた先の街中で雑居ビル内に精神病院を開業している。医者は他に男性が一人、女性が一人いるようだ。待合室にはいつも(三回目だが)十人近くが順番待ちをしている。昨今の社会情勢上、こういった商売は繁盛すると聞く。
 息の詰まる時代だからね、とは医者本人の弁。実感がこもっていた。不養生だろうか。
「この間の心理テストはどういった結果だったんですか」
「知りたい?」
「知りたいですね」
「うちはあんまり患者には詳しく言わないようにしてるんだよ」
「何故?」
「意外とつまらないからさ。みんなもっと大層深刻な結果が出るに違いないと期待して来てるんだ。夢を壊しちゃ悪いだろ」
「その発言自体、どうなんですか」
「君は患者じゃないから」
 そう言って苦虫を噛み潰したように表情を曇らせた。同情されているな、と、それぐらいはわかる。
 確かにおれはこの病院に患者として通っているわけじゃない。一応、診察に来たという形にはしているが、それは診療時間の方が時間の都合がつけやすい、むしろサボる口実になると伊作先生が希望したからってだけだ。
 だからといって自分が医者に掛かる必要のない五体満足とは思わないが。


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七、インチキ精神科医の研究対象
七、インチキ精神科医の思考実験

次の章のタイトルを二つ考えました
あとインチキってひらがなとカタカナのどっちがいいだろうか

数日前に書いてた
七、被害者少女A
というのは後に回すことにした
それを考えてて三〇分過ぎる

インチキ医者
いんちき医者
インチキ精神科医
いんちき精神科医
藪医者

思考実験
研究対象
人体実験

人体実験は狙いすぎててちょっとかっこ悪いと思う
研究対象は地味過ぎるけど内容的にはストレート
思考実験が一番意味的にはあれなんだけど
思考実験て言われても普通あんまりイメージわかなそうだし
一長一短

形から入るタイプですよ
まずタイトルから考えます


藪医者の思考実験
インチキ精神科医の思考実験


インチキ精神科医の思考実験

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 おれがそう言うと、彼女はいよいよ驚いて、目を丸くし、口元を歪めた。
 それは最大限の困惑の表情だった。
 彼女の口から答えが出ない。数秒間口ごもり、絞りだすような声で、
「どちら様ですか」
 やっとのことでそう言った。
 断ってくおくと、おれは取り敢えずの流れで会いたかったなどと言ってみただけであって、本当に会いたかったかと問われると、実は会いたくなかったかもしれない。
 遠くで眺めているだけでよかった。と、言うと奥ゆかしいストーカーのようだが、まあ、概ね間違いじゃない。あの事件を生き延びた彼女の現状がひとまず判ればそれだけで十分だった。
 だのに思わず話しかけてしまったのは、本人を確認したかったから――という後付け。
 思わず、だ。動いた瞬間、意図せず。意図なく。
 思ったことだけを行動できるなら、人間って非常に便利だろうと思うんだけど。理性で全部制御できたら。もちろん呼吸とかそいうのは抜きにして。
 とにかく、別に心底会いたかったわけでもないので、こんなに困らせてしまったとしても、別に精神的なダメージなどなかった。明らかに会いたくなかったみたいな顔なんて。少し嘘。
「昔、近所に住んでた」
 おれは努めて明るく質問に答えた。間違いじゃない。だから嘘じゃない。
「覚えてる?」
「え」
 彼女はいよいよ困窮極まって眉を八の字に歪め、俯いた泣きそうな顔で首を二、三度横にふった。それから、助けを求めるように、横の女子の顔を見上げた。
 助けを求められた少女は、彼女を庇うように、一歩前へ出て立ちふさがった。派手な見た目の茶髪の少女だった。
「あの、もしかして今日転校して来た人ですか?」
 代理人らしい。
「そう。はじめましてよろしく」
「……綾部が嫌がってるんですけど」
 嫌悪。される謂れはない。そんな風に犯罪者のような目で見られるのは。
 尾浜が後ろで、わざとらしくため息をついた。
「おい、久々知。おれがさっき言ったこと、覚えてる?」
「何だって?」
「やめとけよ。女子はこういうのに敏感なんだ。お前みたいなの簡単には信用しないよ」
 こういうの、というのは、つまりおれが訳あり物件であるという件についてだ。
 尾浜の発言ははっきりとした皮肉で、この女子らへの攻撃だった。一応、奴は正義感の強い方。そして事件が大好き。
 あーちゃん、を取り囲んでいた女子が怯んで、各々顔を見合わせた。
 まるでいじめっていうか、差別してるみたいじゃん、あっちが悪いのに――と、そういことをバツの悪そうに呟きあっている。
 あーちゃん、はその中心で申し訳なさそうに笑って、首を振った。
 彼女とおれの間に立ちふさがる女子数人、熱を持った人間の壁の向こうに、彼女はぼやけて見えた。おれと彼女以外も生きた人間か、と当たり前の――当たり前と思わなければならないことが、頭にちらついた。
 そして唇を噛んで、彼女はおれを見上げた。
「お名前、なんて言うんですか」
 と、言った。
 覚えてない――と、はっきりと言った。
 別にショックでも何でもない。本当に覚えていないとしても、白を切られているとしても。覚えていないはずがないけど。
「久々知兵助」
「久々知先輩」
「よく知ってるな、先輩だって」
 あーちゃん、は頷いた。
 意味のない皮肉だった。おれが二年に転入してきたことは、この学校の誰でもが知っていることだった。
 あーちゃんがおれの年齢を知っているという証拠には成り得ない。
「ごめんなさい」
 相変わらず泣きそうな目で、人の波の向こうであーちゃんはおれに向きあった。
「覚えていません。ごめんなさい」
 と、彼女は嘘を吐いた。
 嘘だ。
 つまりおれはその瞬間、知っているくせに、という返答を飲み込んだのである。
 覚えていないのなら、こんな泣きそうな顔なんてしないだろう。身知らずの男に話しかけられた、それだけじゃないか。
「ごめんなさい」
 もう一度、彼女はそう言って、深く頭を下げた。
 この時はまだ、これでおしまいだった。
 へーくんは良くて、久々知兵助はだめ。そういった事実は確認できていなかった。
 彼女との再開はこんな感じだった。
 その後。あーちゃんが半泣きでおれに謝ったりするから、ますます周囲の空気は気まずくなった。というか女子の視線が凶悪になってきた。
 確かにこれは初対面の女子を半泣きにさせるという、学校生活においてかなり不用意事態だ。
 おれは完全に悪者だろうか。それに徹したほうがいいのか。どんなやり方が正しい?
 おれもさっきの彼女のように、他人に助けを求めて尾浜の方を見た。
 呆れ返ったように肩をすくめて、口を噤んでいる。高みの見物の様。なるほど。
 おれも肩をすくめた。
「そう。それなら、いいさ」
 良いも悪いも、別に何もないんだけど。
「嫌なことを思い出させて悪かったよ。別に綾部に合うために戻ってきたわけじゃない」
 矛盾した。さっき「会いたかった」なんて言った気がする。
 彼女は訝しげにおれを睨み上げた。会いたかったわけじゃないなら、どうして? そう言われたわけじゃないけど、当然の疑問だ。でも答える必要はなかった。
 チャイムが鳴った。もう行くぞ、と尾浜が声をかてきた。素晴らしいタイミングだった。動き出した廊下のどさくさに紛れて、そのまま立ち去った。
 その日からおれは彼女をストーキングしてみることにした。情報はいくらあっても構わない。
 そうして考えてみると、これは全く不用意な行動だった。思わず彼女に話しかけたことだ。引けない理由を自分で作ってしまった。
 おれにも当然、個人的な感情ってものはある。


叙述トリックとしてまずい部分があったので書き直し

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