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あまり時間がないのでここだけ更新しています。 その日書いた分をまとまりなく記事にしています。 ある程度まとまったらHTMLにする予定です。
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「あ、ちょ、ちょっと」
 当惑した弱い声で留三郎は彼女を呼び止めようとしたが、田舎のファミレスってのは家族連れが多く非常に賑やかなものでして、近くの席で泣き叫ぶ赤ん坊の声にかき消されてしまった。
 女の背中に縋って曖昧に伸ばした男の手の行き場がない。
「もっと声張り上げないと駄目っすよ」
「押しが弱いんですね、警察官の割には」
「おれが警察だとか職業がなんだとか押しが強いとか弱いとか関係ないだろうが! 何なんだお前は!」
「ら?」
 一応聞き返してみた。
「ら? は? 何だ?」
「複数形じゃなくて良いんですか」
「つまりさ、兵助、こいつはお前の正体を知っているから、この場合の疑問系は単数で済まされるわけ」
「まあ、そうなんだろうけど」
「名推理?」
「そんなのは事件の関係者を小部屋に集めてからやるもんだ」
「その日は近いな、この流れで行くと」
 呆れ切った顔でやりとりを眺めていた男が、深くため息を吐いた。
「そう、そうだ、お前だ。お前だよ。お前は誰なんだ。何でついてきたんだ。何でよりにもよって一番高いメニューなんだ!」
「一番でもないですよ。上から四、五番目ぐらい」
「お前な、公務員っつってもな、おれみたいな下っ端は悲しいぐらい薄給なんだぞ!」
「あ、奢ってくれるんですかぁ。なんだか知らないけど、ご馳走様です」
 あ、怒っている。俯き気味になった顔の筋肉が小刻みに痙攣している。机の上に乗せた右の拳が固く握られている。
 この人、見た目通りかなり気が短いな。
「何なんだよいったい」
 目の前に二人も人間が存在するというのに、独り言を言った。
「まあ、このくらいの年齢のガキなんて基本生意気なものなんですから、こいつが特別ってわけでもないんで。本気にならないほうがいいですよ」
「どんなフォローだよ」
「はぁ」またため息を吐いた。「で、そっちの少年、君は誰で、何で付いてきたんだ」
「黙秘権が——」
「こいつは尾浜勘右衛門って名前で、同じ高校のおれの友達でクラス委員長で、趣味が探偵ごっこで、住んでるのは学校から徒歩二十分ぐらいの」
「ちょっと久々知くん、人の個人情報を勝手に開示しないで」
「友達、ってのはわかったよ。何でついてきたんだ」
「野次馬精神から」
「そんなにばっさり切り捨てないでよ。まあ間違っちゃいないんだけどさ。おれは、ま、立会人、オブザーバー」
「野次馬、通りすがり、他人、第三者」
「そんな所。何かあったとき、目撃証言が必要でしょ」
「何があるっていうんだ。警察を疑うのか」
 また怒っている。勘右衛門の言い方が屈辱的であるのは理解できる。法に一切かすりもしない程度に。
「こいつがなんかするかもしれないでしょ」
「おれが?」
「お巡りさんもそれを疑っている」
 ぎょっとした。さっきから警官相手に、よくそんなことが言えるものだ。おれは薄笑う勘右衛門の顔を見て、それから眼球だけを動かして留三郎を見た。留三郎はおれ以上に驚愕した顔をしていた。
 この人はこんなに感情を顔に出して、仕事は務まるのだろうか。
「いや、ただ、おれは行方不明者の捜索を行なっていただけで」
「捜索願を出したのは父親ですよね」
「そうだ」
 当然。おれに他の身寄りはない。以前は高校にも通っていなかったから、他に失踪を知る人間はいない。生きた人間の中には。



逆三角形体型の久々知の画像ください

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 おれは頷き、そして勘右衛門も頷いた。なぜか。
 場所は、あの駅前のファミレスだ。先日、深夜徘徊のち死体遺棄事件を決行するあーちゃんのストーキング時に通りすがったあれ。過疎化が進行するクソ田舎であっても、夕方のこの時間のレストランは混み合っている。幸いなことだ。
「ご注文は?」
 若いウェイトレスが注文を取りに来た。おれの覚え違いじゃなければ、彼女は先日の目撃者の片割れだ。おれの顔は見られていない。
「コーヒー。兵助、お前は」
 名乗ってもいないのに、馴れ馴れしくも名前を呼ばれた。不愉快というか、不気味だ。勘右衛門が口元で笑っていた。笑いをこらえていた。
「なんでも。おごりですよね?」
「ん、まあな。コーヒーでいいか」
「おれはこのハンバーグセット一つ」
「コーヒーおふたつ。ハンバーグセットおひとつ」
 ウェイトレスは無感情かつ怠惰に注文を復唱し、ちろりと客三人の顔を見回すと、返事も聞かずに立ち去った。もう少し店員教育はすべきじゃないだろうか。



下半身のがっしりした久々知のイラストを見たい

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「まだ、新しい死体は出てませんよね?」
「そんなことはわかっている! 本当に……あいつが言ってた通り、人を食ったようなやつだ」
「人を殺したことはありますけど、食べちゃいないですよ」
「知っている! おれはお前の戯言を聞きに来たんじゃない」
 知っているのか。嘘なのに。
「で、おれは今度は一体どんな犯罪を犯したんですか?」
 男は肩を落として大きくため息を吐き、しょうがないやつだ、聞こえるようにぼやいた。
「捜索願が出てるんだよ、家出少年」
 等と、信じられないようなことを言った。

 親の話。
 子供の頃、罪も無い少年少女の頭を金属バッドで殴打して誘拐監禁虐待のワンセットが趣味の犯人に監禁されていた頃。おれの父親は、恐らく何も知らずにのうのうと生きていた。
 やがて逃げ出してきた自分の子供を見て、奴は大いに困惑した。非常に迷惑そうだった。嫌悪感すらあった。過去のおれの目にはそう映ったし、今でもその印象は間違いではないと確信している。
 母親は奴の元からとっくの昔に失踪していて、女の行方も、生死も、子供のこともだいたい忘れ去っていたから、と当時の状況から推測される。
 それでも奴は、この初対面の糞ガキがどうやら実の子供らしいとあらゆる証拠を持って特定されてしまった手前、引き取って養育せざるを得ない。奴は両親——つまりおれの祖父母との縁はとっくに切れてしまっているというか既に死んでいるとかで、いよいよもって迷惑千番のようだった。
 日常的に、奴はおれの事を「使えない奴」と表現した。その通りだろう。おれは奴に使われる気が一切起きなかった。血の繋がりを持ちだして奴隷になれと言われても、何の説得力もない。
 別に奴はおれに奴隷になって欲しかったわけではないようだが、とにかく、天涯孤独の二十代男性の家に面識のない子供が世話になるというのは、何事もスムーズには行かなかった。
 だからまあ、おれは一つ親切心を出して、先月辺りから家出してみているっていう話だ。
 以上は不完全な嘘だけど。
 仮におれの証言を信じるとして——すると矛盾が生じる。奴がおれを探す理由。
 いなくなって、喜んでいるのが筋だろう。

 その警察官は食満留三郎と名乗った。私服捜査中だろうか。校門前で気まずい空気を創りだしたそいつは、まばらに通り過ぎる学生たちの目を気にして、場所を移そうと提案した。

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「警察? 何の用ですか」
 冷静ぶってみる。いや、もちろんぶらなくても冷静なんですけども。
「とぼけるなよ。心当たりはあるんだろう?」
「現行犯でもないし、逮捕状もない」
 今この瞬間の身の潔白なら自信がある。
 あ、そうでもない。携帯の削除済みデータがあった。人間の丸焼き画像。アレが来た時点で水没でもさせて、新しい携帯を買えばよかった。
 そんな風に公開するのは実際に逮捕されてしまってからでも別に遅くない。
 突き出された警察手帳を眺めながら、一瞬の間に色々と考え込んだ。
 どうも、この警察という団体が苦手だ。嫌いでもないし、彼らがなければ今のおれは生きていないわけだし、つまりあらゆる意味で恩人らの集団なわけなんだけど。
 引け目を感じる。負い目じゃない。引け目だ。
「馬鹿だな」
 男は笑った。慈愛を含んだ苦笑いだった。それで急に大人びた。元々、どう見ても大人だが。
「お前はな、現行犯だ」
「は?」
 その苦笑いで思い出した。こいつとは、数日前の深夜に会った。早朝と言うべき時間か? 事実上犯罪幇助を行っていたにも関わらず、善良な第一発見者として事情調子を受けた時だ。深夜の住宅街側の森林における、あーちゃん被告による死体遺棄事件について。
 記憶の通り、つり目で顎の細い、精悍だか喧嘩っ早そうな顔立ち。苦虫を噛み潰したような顔で、壁を背に仁王立ちしていた。一言も発さなかった。ほかの刑事たちよりも若いなと思った覚えがある。それだけ。
「何やったんだよ」
 勘右衛門が、予想通りの浮ついた声で話に割り込んで来る。
 おれは思わず、といった風に、自分の両手を開いたり閉じたりしながら眺めた。返り血でも付いてんじゃないかっていう、そんな感じで。
 もちろん付いていない。

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十、熱血新米刑事のストーキング講座
 不正解だ。しかし惜しい所。赤ペンで三角をつけて、お情けで二点ぐらい頂いたっていいだろう。一問十五点の応用問題だったとして。
 校門前に厳つい男が仁王立ちに待っていた。こんな奴は知り合いにはいないが、まっすぐにおれを睨んでいるので、どうも間違いなくおれに用があるらしい。
 厳ついながらも見た目はごく普通の若者の範囲内に収まってはいる。細身のジーンズと灰のジャケット。何かスポーツでもやってらっしゃる? っていう体格。そういう若者は世においくらでも居る。そんなごく普通の若者に睨まれる覚えはないんだけど、ごく普通の若者に変装できる職業の方とならば、ちょっとした御縁がある。
 そういう職業の人間の目をしている。
 面倒な話。
 犯人とどちらが面倒か、と言われりゃ、ここは悩む所。
 勘右衛門がその男の方をチラチラと横目で見ながら、知らないふりで適当な世間話を敢行する。
 おれも全く気がつかないふりで、やり過ごしてやろうと思った。
 前を通り過ぎる。
 男はじっとおれを見ている割には声もかけない。
 ここで通りすぎて、今やり過ごして、後を付けられても嫌だな、と思った。何かあるなら、目撃者の多いところで。
 おれの顔に出ていたのか、この男も同じようなリスク管理を行ったのか定かではないが、ともかく男は、通り過ぎたおれの背後から肩をむんずと掴んできた。
 痛い。素人の力ではないのは馬鹿にでも判るわけで。結構な勢いで振りほどいて、背後へ振り向き様に思わず睨み返したのは、印象が悪い行為だっただろう。失敗した。
 そいつは胸元から素早く黒い手帳を取り出し、向き直ったおれの顔に殴りつけるように突き出した。それはまるで、とっておきの必殺技だと言いたげな感じ。ちょっと得意げに正義に燃えた顔つきだ。子供みたいに。
 吹き出したりしたら、更に印象は悪くなるだろう。堪えた。
「警察だ」
 と、怒ったように手短に、しかしやはり得意げな薄ら笑いを隠しきれずに、そいつは自己紹介をすませた。
 横で勘右衛門が口をあんぐり開けて動作停止している。どうせ直ぐに、面白くなってきたなんて言い出すに違いない。


今Twitterの画面をまじまじと見ていたら
全く記憶にないツイートをお気に入りに登録しとる!
なんでだ?
どうやって解除するんだっけ?
解除したほうがいいんかな?

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